30年目のコクラン:30年目のコクランが教えてくれること

コクランの編集長であるKarla Soares-Weiserは、コクランの30周年を振り返る論説の中で、「私たちの組織の形とアウトプットは、時代のニーズに適応し続ける一方で、人類にとってこの重要な岐路において世界が必要とするエビデンスを提供し続ける」と述べています[1]。グローバルな健康についてのエビデンスに対する要望に遅れを取らないために、コクランはこの30年間で変化を受け入れてきました。このことは、最初の頃は方法論的な発展を通じて、後には自動化や人工知能を含む技術的な変化によるものでした。方法とプロセスの進化により、コクランは、エビデンスの統合を通じて医療と社会的ケア全体の意思決定に情報を提供することにこだわり続けることができています。

コクラン創設30周年を記念して、発表されたレビューの特集号を作成しています。レビューには、これからも続くミッションと、それを達成するための革新的な方法の両方が反映されています。本特集号に掲載されたレビューは、重要な問題を取り上げ、コクランが開発し構築してきた方法論的アプローチを用いたものです。この特集号のなかのレビューは、とりわけ健康格差、グローバルヘルス、非感染性疾患に取り組むものです。1つのネットワークメタ解析で複数の介入を比較するものもあれば、実施に焦点を当てるもの、介入に関する疑問に対して確立された馴染みのあるアプローチを用いるべきものもあります。いずれも、コクランの将来への手がかりが、その方法論の多様性とユーザーのニーズを満たすことへ貢献してきた歴史にあることを示しています。

糖尿病治療の質を向上させる戦略:糖尿病患者の転帰に及ぼす影響

このレビューでは、質を改善するプログラムは、特に複数の戦略を組み合わせて用いた場合に、糖尿病治療を改善できることがわかった。その中でも、糖尿病患者の主要な転帰を一番改善させた戦略は、症例管理、チームの変更、患者教育、自己管理の促進である。この研究の目的は、複雑な質改善介入における特定の構成要素(または構成要素の組み合わせ)の効果に関する一つの答えを提供することではなく、糖尿病ケアに携わる医療従事者や糖尿病患者の目標とする行動の決定要因(例えば阻害要因や実現要因)や、地域の状況や資源に、意思決定者や研究者がそういったプログラムの構成要素を合わせることができるように、豊富なデータセットを提供することであった。レビューを読む

パーキンソン病患者に対する身体運動:系統的レビューとネットワークメタ解析

このレビューでは、パーキンソン病患者にどのような運動が最も効果的かを調査している。その結果、多くの種類の身体運動が動作や生活の質を向上させるのに効果的であり、どの運動も大差がないことがわかった。本レビューニュース記事、関連するコクラン臨床回答を読む。ネットワークメタ解析の主な結果は、MAGICと共同で作成した双方向型の結果の要約表でも見ることができる。

下痢症を予防するための衛生環境を改善する取り組み

下痢は、特に低・中所得国の5歳未満の子どもたちの間で、世界的な疾病負担の大きな要因となっている。このレビューでは、異なる年齢層でも、衛生対策が下痢予防に効果的であることがわかった。本レビューと関連するコクラン臨床回答を読む。

喘息治療におけるビタミンD

2016年にこのテーマに関する前回のコクラン・レビューが発表されて以来、喘息増悪リスクの低減と喘息コントロールの改善におけるビタミンDの潜在的役割をめぐる議論が続いている。この更新されたメタアナリシスに新しい試験のデータを含める他ため、結果と結論が変わった。以前は喘息の増悪を減少させることが示されていたが、今回のレビューでは、重度の喘息増悪リスクの減少や喘息症状のコントロールの改善について、ビタミンDやその水酸化代謝物の有益性はほとんどないと結論づけている。本レビューと関連するコクラン臨床回答を読む。

医療サービスの設計、提供、評価を改善するために、消費者と医療サービスの提供者が提携することについてのお互いの見解と認識:質的エビデンスの統合の共同研究

医療サービスの計画、提供、評価において消費者と協力することは、患者中心のケアの不可欠な要素である。医療サービスを改善するために消費者と提携する方法は、正式なグループ・パートナーシップ(委員会、理事会、運営グループなど)を含め、数多くある。レビューの結果、消費者や医療サービスの提供者の中には、パートナーシップによって医療サービスの文化や環境が改善され、医療サービスの計画や開発方法も改善されたと考えている人がいることがわかった。この質的エビデンスの統合は、消費者と医療サービスの提供者からなるステークホルダー・パネルと共同で作成された。本レビュー、関連するコクラン臨床回答を読む。著者のインタビューを聞く。

地域で暮らす高齢者の転倒を予防するための環境への介入

毎年、65歳以上の人の約3分の1が転倒している。転倒の多くは自宅で発生し、転倒全体の30%以上が環境リスクによって引き起こされる。過去1年間に転倒したことがある、最近入院していた、日常生活のサポートが必要であるなど、転倒のリスクが高い高齢者の場合、自宅における転倒の危険となる環境因子を取り除くことで、転倒回数を38%減少させることができる。手すりのない階段、滑りやすい通路、照明が暗いことなどが、転倒の危険となる環境因子の例として挙げられる。本レビューと 論説を読む

生後6か月から12歳までの小児における死亡、疾病への罹患、および発育不良を予防するための亜鉛の補給

亜鉛欠乏症は低・中所得国で蔓延しており、死亡、疾病への罹患、および発育不良の重大な危険因子と考えられている。このレビューでは、生後6ヵ月から12歳までの小児に亜鉛を補給しても、全死因での死亡率にはほとんど差はないが、下気道感染症やマラリアによる死亡にはおそらく効果があるとしている。亜鉛は下痢による病気を防ぐかもしれないが、補給後に嘔吐する可能性がある。また、身長の増加に対し、わずかに効果がある可能性がある。本レビューと関連するコクラン臨床回答を読む。

健康アウトカムと医療サービス利用の改善を目的とした条件付きおよび無条件現金給付の経験:質的エビデンスの統合

貧困が不健康と関連し、不健康が直接的・間接的なコストをもたらし、貧困を永続させることはよく知られている。社会的保護は、病気になった時の貧困を予防・削減することを目的とした政策やプログラムを含み、この悪循環を断ち切るひとつの方法となりうる。人々は現金給付を良いものと捉え、生活に基本的に必要なものを満たすために必要なものだと考えている。しかし、現金給付は、良い影響も悪い影響も与える可能性がある。すべての人が現金給付を望んでいるわけではなく、保健行動(健康を保持、増進したり、病気に対処しようとする行動)を変えるには、現金のみでは不十分であると考えている受給者もいる。本レビューを読む

成人の慢性疼痛患者に対する疼痛管理のための抗うつ薬:ネットワークメタアナリシス

慢性疼痛は成人に多く、身体能力、幸福感、生活の質に有害な影響を及ぼすことが多い。この総説では、さまざまな抗うつ薬を比較し、慢性疼痛の治療にどの程度有効かを検証している。このレビューでは、1つの抗うつ薬であるデュロキセチンが60mgの用量で投与された場合の有効性について妥当なエビデンスがあり、それ以上の用量を使用しても有益性はないことが示された。本レビューニュース記事、関連するコクラン臨床回答を読む。

マラリアを予防するための外用の虫除け剤

マラリアは蚊に刺されることで感染する病気である。この病気は、中南米、南アジア、東南アジア、そして特にアフリカの熱帯地域において、定期的に発生している。殺虫剤で処理された蚊帳のように、蚊に刺されるのを防げるようなものは、人々を感染から守ることができる。効果的ではあるが、こういったもののほとんどは、屋内で人を刺す蚊を対象としている。屋外で刺す蚊に対しては効果が低いため、これらの方法だけでマラリアをなくすことはできない。外用虫除け剤は、蚊に刺されるのを防ぐために皮膚に塗る物質である。他の防虫方法が利用できない環境では、虫除け剤の使用により、熱帯熱マラリア原虫によるマラリアの発生率と有病率がわずかに減少する可能性を示唆するエビデンスが得られた。本レビューを読む

感染症の局所的流行(エピデミック)時または世界的大流行(パンデミック)時において、ワクチン治験への参加に影響を与える要因:質的エビデンスの統合

ワクチン臨床試験へのリクルートは、急速に開発されたワクチンに関連する潜在的なリスクやベネフィットを懸念する健康なボランティアを対象とするため、特に困難である。このレビューでは、パンデミックや伝染病の流行時に、ワクチン治験に参加するかどうかの意思決定に何が影響するかを調べた研究をまとめた。パンデミックやエピデミック時におけるワクチン治験への参加の意思決定は、治験がどのように設定され、情報がどのように伝えられているか、起こりうるリスクや副作用に対する個人の考え方、友人や家族の影響といった、多くの要因に影響される。また、不当な取り扱いを受けることや偏見に対する恐れや、政府に対する不信感が、ワクチン治験への参加を妨げることもある。ワクチン治験に参加する理由としては、他者を助け、病気の蔓延を防ぐ機会だからと考えることが多いようである。本レビューを読む。

がん以外の慢性疼痛を抱える子どもや若者とその家族が、自分の状態、疼痛診療や治療法をどのように経験し、理解しているかについてのメタエスノグラフィー

小児期のがん以外の慢性疼痛は広くみられ、世界中の小児および若年層の20%から35%が罹患している。かなりの数の子どもたちにとって、がん以外の慢性疼痛は、生活や生活の質にかなりの悪影響を及ぼし、医療サービスや薬物療法の利用を増加させる。多くの国では、子どもの慢性疼痛を専門に管理する診療はほとんどなく、現在提供されているサービスも不十分である。このレビューでは、がん以外の慢性疼痛を持つ子どもとその家族が、どのように痛みを経験し、慢性疼痛に対する診療や治療についてどのように考え、どのようなアウトカムが彼らにとって重要であるかを理解するために、43の研究から得られたエビデンスを統合した。著者らは、管理不十分ながん以外の慢性疼痛が家族生活や人間関係に影響を与えていることを発見した。また、親の雇用だけでなく、子どもの教育や将来の雇用の見通しにも影響を与えた。家族は、子どもの痛みやその影響に対処するための、医療サポートを受けることが難しかった。子どもや親は、医療従事者が必ずしも自分たちの経験や専門知識に耳を傾けてくれなかったり、子どもの痛みを信じてくれなかったりすると感じていた。診断と治療法を求めて何度も医療機関を訪れた家族もいた。本レビューを読む。

低・中所得国における5歳未満児の健康指標に対する成長モニタリングとプロモーションの影響

低・中所得国に住む5歳未満の子どもたちの多くは、十分な栄養を摂取できていない。その結果、病気が増えたり、精神発達が損なわれたり(後年、学校や仕事の成績が低下する)、死に至ることもある。成長モニタリングとプロモーション(GMP)は、定期的な成長測定と栄養プロモーション活動を組み合わせた複雑な介入である。現在のところ、GMPの実施方法やプロモーション活動をどう設計するか、を説明する標準的なガイドラインはない。また、政策立案者、特に国際援助機関では、GMPの目的や価値に対する解釈や認識が異なっており、変化しやすい。栄養不良のレベルが高い、資源の乏しい農村環境で5歳未満の子どもを対象に実施された6件の研究から得られたエビデンスに基づき、GMPの有効性に関するエビデンスは限られており、不確実であることがわかった。

低・中所得国における精神疾患の予防とウェルビーイングの促進のためのプライマリーレベルのコミュニティワーカーによる介入

特に低・中所得国では、専門的なメンタルヘルスケアスタッフが不足しているため、メンタルヘルスのサポートを受けられない人が多い。この障壁を克服するために、看護師や教師など、メンタルヘルスに関する専門的な背景を持たない人々が、一部のメンタルヘルス・サービスを提供するための訓練を受けることができる。このレビューでは、この戦略が大人と小児のメンタルヘルスを促進し、精神疾患を予防するのに役立つかどうかを調査した。また、費用についても調査された。このレビューでは、メンタルヘルスの疾患の予防を目的とした介入を実施するために、プライマリーワーカーを活用することで、メンタルヘルスの指標が改善される可能性があることがわかった。

ヒトインスリンの熱安定性および保管

インスリンは血糖値をコントロールするのに必要で、人体で自然に作られる。糖尿病の人は、自然に十分なインスリンを作ることができないか、体がインスリンを効果的に使えないようになっている。インスリン製剤を入手して注射しなければならない人もいる。インスリンを現行の勧告に従って2℃から8℃の温度で保存するには、きちんと冷蔵する必要がある。糖尿病患者の多くは医療施設や冷蔵設備がほとんどない環境で生活している。また冷蔵設備は、自然災害や猛暑、戦争などの不安定な電力供給によっても影響を受ける。このレビューでは、異なる温度で保存した場合のインスリンの安定性を調べた。このレビューには、ヒトを対象としたものから実験室で行われたものまで、さまざまなタイプの研究が含まれている。このレビューでは、未開封のインスリンバイアルまたはカートリッジは、インスリンの効力が有意に低下することなく、最高25℃で最長6ヶ月間、最高37℃で最長2ヶ月間保存することが可能であることがわかった。また、25℃から37℃の間で変化する温度(いくつかの国における日中と夜間の変動と同様)でインスリンを最長3ヶ月間保存しても、短時間作用型、中間作用型、混合型ヒトインスリンのインスリン活性に意味のある低下は生じないという証拠もいくつかあった。土のポットを使うなど、直射日光を避ける工夫をすれば、世界の多くの高温地域でインスリンを保存するのに役立つかもしれない。

産後出血の予防、発見、管理に関する認識と経験:質的エビデンスの統合

このレビューでは、出産後の大量出血(産後出血)から生還した女性と、出産に携わった医療従事者の経験を調査した。早期に発見し、エビデンスに基づいた適切な治療を開始することで、産後出血を管理することは可能であるが、困難な場合もある。これは、病院へのアクセスが不平等で、効果的な医薬品へのアクセスが限られている中低所得国で特に顕著である。このレビューには、26カ国からの43の研究が含まれている。ほとんどの研究は低・中所得国のもので、女性や医療従事者の視点も含まれていた。このレビューでは、産後の出血をめぐる文化的な観念が、産後の出血に対する個人や地域社会の見方に影響を与えることがわかった。女性が自宅やコミュニティで出産する場合、文化的な観念が医療的ケアを求めることの遅れにつながる。医療施設では、医療従事者は出産後の出血量を推定するのが難しい。産後出血の管理における一般的な課題には、不十分な人員配置、ストレスの多い労働条件、不十分なトレーニング、薬剤や備品の不足などがある。チームベースのシミュレーション訓練を通じて、さまざまな医療従事者のリーダー(医師、助産師、一般ヘルスワーカー)が、分娩後出血の女性を管理する際にチームとして迅速、効率的、かつ友好的に作業できるような共有メンタルモデルを開発することができるようになる。

低・中所得国の小児における予防接種率向上のための介入策

多くの中低所得国では、予防接種率が低い。2014年までに129カ国がDTP3ワクチンの接種率90%という目標を達成したが、未接種の子どもが最も多い10カ国はすべて低所得国または低・中所得国である。

これらの国々において、公平で高い予防接種率を達成・維持するための最善の方法について、十分な情報に基づいた決定を下すには、意思決定者が、どのような介入が有効であるかの最良の科学的エビデンスを入手し、そのエビデンスをその国の保健制度に当てはめられることがその一助となる。遠隔地のコミュニティへのインターネットの普及が進み、高所得国で現在使われている技術やアプローチの展開が可能になった。このレビューでは、予防接種率の向上を目的とした、患者中心の介入、医療提供者中心の介入、医療システムへの介入について検討する。

シートベルト着用促進のための教育、インセンティブ、工学に基づく介入

交通事故によって毎年130万人以上が死亡し、数十万人が後遺症や重傷を負っている。こうした死亡のほとんどは中低所得国で発生しており、死亡率は高所得国の10倍にも達する。このレビューでは、交通事故の被害を軽減する最も簡単な方法のひとつであるシートベルトの使用を増やすことを目的とした介入策について検討する。このレビューでは、シートベルト着用を奨励するための、法による刑罰ではなく、教育、インセンティブ、工学に基づく介入を検討した。15件の研究が含まれたが、そのほとんどはアメリカで行われたもので、主に教育的介入に焦点を当てたものであった。このレビューでは、教育に基づく介入や工学に基づく介入が、青年期初期や青年期後期、成人におけるシートベルト着用を促進する可能性があるという限定的な証拠がいくつか見つかった。しかし、インセンティブ(単独または他の介入策との組み合わせ)や他の種類の介入策の効果を調査するには、より多くのエビデンスが必要である。

治療や検診に関する決断に直面した患者のための意思決定ガイド

患者の意思決定支援ツールとは、治療や検診を検討している人が、治療を進めるかどうかを決めるのに役立つパンフレット、動画、インターネットなどのリソースのことである。支援ツールは決断について、選択肢を説明し、何が自分にとって最も重要かを考える手助けをする。レビューの著者らは、患者にとって最も重要なことを反映した選択肢を選択するために、意思決定支援ツールが通常のケアよりも優れているかどうかを調べたいと考えた。このレビューでは、107,698人の成人を対象とした209件の研究から得られたエビデンスを要約している。ほとんどの研究は、手術、スクリーニング、遺伝子検査、長期投薬に関する決断を助ける支援ツールについて調査したものであった。意思決定支援ツールを使用した成人は、自身にとって最も重要なことを反映した選択肢を選ぶことが多いということには、中程度の信頼性があった。意思決定支援ツールを使用した成人は、利益と有害事象に対する知識や見通しが大幅に良くなり、より深く意思決定に参加でき流ということに高い信頼性があった。加えて、意思決定支援ツールは、決断における後悔などの有害事象を引き起こすことはないということに高い信頼性があった。

この特集号について

参考文献

1.Soares-Weiser K. Looking back, looking forward:Cochrane at 30 and beyond. Cochrane Database of Systematic Reviews 2022;(12):ED000161. https://doi.org/10.1002/14651858.ED000161

謝辞

この特集号は、コクラン副編集長のToby Lassersonが監修・紹介した。

翻訳

この特集号の日本語版は、山本依志子(国立成育医療研究センター)が翻訳した。(2020年2月13日翻訳、2024年12月24日更新)

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