低価値医療の実装解除:COVID-19パンデミック時代における資源の優先順位付け

COVID-19のパンデミックとそれに伴う対策により、持続可能な医療の必要性がさらに高まっている[1,2]。 医療の急速な再編成と新規研究の開始の推進により、財政的・人的資源に大きな負担がかかっている。また、日常的な検査や治療の延期や中止、社会的なロックダウン、COVID-19への対策の支出が世界的な経済危機を引き起こすなど、医療の提供にも大きな影響を与えている。COVID-19以外の医療に利用可能な資源は多くの国で減少しており[3]、今後もしばらくは、利用可能な資源は減少し続ける可能性が高いが、診断や治療の遅れにより医療サービスの必要性が高まる可能性がある。その結果、世界の医療は資源に余裕がある、また資源に乏しい環境ともに、システムの持続可能性に対する重大な新しい課題に直面している。限られた医療資源を効率的かつ効果的に活用することが求められている。医療資源は、患者にとって最もメリットのある方法で利用され、最も必要とされる人に優先的に提供される必要がある。医療システムは価値の高いケアを提供する必要がある一方で、価値の低いケアや非効率なケアを特定し、安全に削減し、必要に応じて中止する必要がある。医療制度の持続可能性と公平性を確保するために、これに関する意思決定は透明性があり、信頼できる強固なエビデンスに基づいて行われ、公平性と倫理原則に従うべきである。

この特集号は、医療機関の受診を増やす必要があるものなど、資源を大量に消費する介入のうち、臨床的に効果が小さい、あるいは効果がないとする確実性の高い、あるいは中等度のエビデンスがあるもの、また、患者に害を及ぼすとするエビデンスがあるものの例を紹介する。これらのレビューは、特にCOVID-19パンデミックに関連しており、パンデミックの最中や後に、ガイドラインや政策立案者、医療を計画する意思決定者に知ってもらうべきである。この特集号は、シリーズの第一弾であり、効果がない、有害である、または証明されていないとされる他の医療介入に焦点を当てた特集号が引き続き出版される。

関連論説も参照:COVID-19パンデミックにおける低価値医療についての賢明な選択:エビデントリーコクランは付随するブログ医療資源が不足しているときに賢明に医療を選択するを作成している。

病気の罹患率と死亡率を減らすための成人の一般的な健康診断

健康な人を対象とした一般的な健康診断は、いくつかの国では健康管理や健康保険の一般的な要素となっている。その目的は、一般の人の病気や病気のリスク因子を発見し、罹患率や死亡率を減らすことでである。一般的な健康診断で行われている個々のスクリーニング検査のほとんどは、まだ十分に研究されていない。一般の人をスクリーニングするにはかなりの資源を必要とし、潜在的に有害な診断・治療を増やすことにつながる可能性があるため、一般の健康診断が、害よりも益をもたらすかどうかを知ることは重要である。

約25万人含む15件の試験を対象としたこのレビューでは、標準的な医療サービスに定期的な健康診断を追加しても、虚血性心疾患、がんによる死亡、またはあらゆる原因による死亡のリスクにほとんど影響を与えないという、確実性の高いエビデンスが示された。また、脳卒中や心血管疾患による死亡率への影響はほとんどないという、中等度の確実性のエビデンスもあった。関連するコクラン臨床回答:一般的な健康診断は、成人の罹患率や死亡率を減少させる効果があるか?

白内障手術に対するルーチンの術前検査

白内障手術は、最も一般的に行われている眼科手術の一つである。中低所得国では白内障手術の件数が増加しており、多くの資源が投入されている。そのため、白内障手術の安全性と費用対効果を最適化することが重要になる。これらの手術のほとんどは、全身および眼の合併症を持つ高齢者に対して行われる。これらの病状を検出するために、ルーチンの術前検査が用いられることがある。これらの検査のエビデンスは、手術の有害事象のリスクを高めるような病状を検出することであり、その結果、患者は手術を延期するか、代替の手術を選択することになるかもしれない。しかし、これらの状態が白内障手術を受けることを妨げたり、周術期の管理を変更すべきかどうかは疑問であるため、これらの検査の有用性や価値は不明である。

このレビューでは、3つの試験における2万人以上の患者のデータを用いて、白内障手術を受ける予定の人を対象に、術前のルーチン検査を行うことは、コストを増加させるが、手術に関する有害事象を減少させたり、手術のキャンセルを増加させたりするものではないことを示した。関連するコクラン臨床回答:白内障手術を待機する成人に対して、術前に定期的に医学的検査を行うことの利点と害は?

回旋筋腱板の疾患に対する肩峰下減圧術

回旋筋腱板に対する手術は、通常、非外科的治療に失敗した患者に行われるが、肩峰下減圧術の臨床効果については以前から不明確であり、潜在的な効果は手術の潜在的有害性とともに考慮される必要がある。

このレビューでは、肩回旋筋腱板のインピンジメントを持つ人を対象に、手術と、プラセボ手術または運動などの他の非外科的療法を比較した8つの試験(1062人)を対象とした。その結果、肩峰下減圧術はプラセボ手術と比較して、痛み、機能、健康関連QOLを改善しないという確信度の高いエビデンスと、治療の成功を報告する人の数に改善が見られないという中程度のエビデンスが認められた。レビューでは、重篤な有害事象のリスクは1%未満である可能性が高いという中程度の確実性のエビデンスを認めたが、そのような事象(深部感染、肺塞栓症、神経損傷、死亡など)は、肩の手術後に報告されている。関連するコクラン臨床回答:成人の回旋筋腱板断裂に対する肩峰下減圧術と運動療法との比較は?

骨粗鬆症性脊椎圧迫骨折に対する経皮的椎体形成術(Percutaneous vertebroplasty:PVP)

椎体骨折は、骨粗鬆症の患者さんで最もよく見られる骨折の一つである。一般に骨折の多くは数カ月で治るが、中には痛みや障害が残り、入院して痛みの治療を継続する必要がある患者もいる。経皮的椎体形成術は、椎体圧迫骨折に対する外科的治療法であり、広く臨床に取り入れられている。椎体形成術では、軽い鎮静をかけたり、全身麻酔をかけた上で、骨折椎体に医療用のセメントを注入する。セメントは骨の中で固まり、骨を内側から形成する。しかし、この方法の利点と欠点については議論がある。

このレビューには合計21の研究が含まれ、そのうち5つの試験には535人が参加し、プラセボと比較した場合の椎体形成術は、痛み、障害、QOL、治療の成功について、ほとんどまたは全く効果がないという中程度から高い確実性のエビデンスが示された。さらに、この手術は、セメントが骨から漏れ出すことによる脊髄圧迫、セメントが血流に漏れ出すことによる肺のセメント塞栓や心臓穿孔、肋骨骨折、感染、麻酔合併症や死亡など、重大な有害事象を引き起こす可能性がある。関連するコクラン臨床回答:骨粗鬆症による椎体圧迫骨折の患者さんにおいて、経皮的椎体形成術はプラセボと比較してどうなのか?

赤血球製剤の同種血輸血のガイダンスとしての輸血(を実施する際)の閾値とその他のストラテジー

これまで貧血の患者さんに赤血球輸血を行う際に用いるべきヘモグロビンの閾値について議論がされてきた経緯がある。輸血実施の目安となるヘモグロビン値を低くする制限的輸血法(最も一般的なのは7g/dLまたは8g/dL)を採用すると、非制限的な輸血法(主に9g/dLから10g/dL)よりも輸血は少なくなるはずである。血液は希少な資源であり、ウイルス性病原体の検査が不十分なため、輸血の安全性が他の国よりも低い国もあるため、閾値の設定の問題は重要である。上記の理由から、不必要な輸血の回数や量を減らすことは、患者さんにとって有益である。

このレビューでは、さまざまな臨床分野で12,000人以上の被験者を対象とした31の臨床試験を同定した。その結果、中程度または高い確実性で、非制限的な輸血法と比較して制限的な輸血法は輸血回数をほぼ半減させるが、30日間の死亡率や病的状態には影響を与えないというエビデンスが見いだされた。関連するコクラン臨床回答:赤血球輸血が必要な人について、制限的な輸血開始の閾値と非制限的な輸血開始の閾値とを比較するとどうなるか。

遠隔転移のない大腸癌の治療後フォローアップ戦略

大腸がん患者は、根治手術や術後化学療法を受けた後、数年間は経過観察されることが多い。そのために医療機関への受診が必要となるが、どの程度の頻度で受診すべきか、どのような検査を患者に対して行うべきか、このフォローアップが患者の予後にどのような影響を与えるかについては、議論があるところである。

このレビューでは、13,000人以上が参加した19の試験から得られたエビデンスを用いて、大腸がんの根治手術後の頻繁なフォローアップは全生存期間の延長にほとんどもしくは全く影響がないことを示す確実性の高いエビデンスがあることを示した。同様に、頻繁なフォローアップが大腸がんによる死亡率は減少させないという中程度の確実性のエビデンスも示された。しかし、頻繁なフォローアップ群では、治癒を意図した根治手術が行われた被験者がより多かった。関連するコクラン臨床回答:非転移性大腸癌の治療を受けた人について、異なるフォローアップの頻度をどう比較するか?

プライマリ・ケア患者の口腔衛生に対する検診の間隔

歯科検診の頻度や、検診間隔の違いによる口腔内の健康への影響については、現在も議論が続いている。推奨される最適な検診間隔は国や歯科医療制度によって異なるが、多くの高所得国では従来から一般歯科医による6ヶ月歯科検診が提唱されている。

このレビューでは、成人の歯科検診を6ヶ月ごとに受けるか、歯科医師による歯科疾患のリスク評価に基づいて個別化した間隔で受けるかは、虫歯、歯周病、QOLに影響しないことがわかった。また、検診の間隔が長くても(リスクの低い人は24ヶ月まで)、口腔内の健康に関する結果(評価項目)が悪くなることはないこともわかった。主として2400人近くの成人を対象としたバイアスリスクの低い1つの臨床試験から得られた、確実性の高いエビデンスとして、4年間の虫歯の数、歯肉出血、口腔衛生関連のQOLにおいて、リスクに応じて、または6ヶ月、24ヶ月の検診間隔の群でほとんど差がないことが示された。関連するコクラン臨床回答:最適な歯科検診の間隔とは?

成人における歯周組織の健康のための定期的な歯石の除去とポリッシング(歯面の研磨)

健康な成人に対する定期的な歯石除去と歯面の研磨の臨床的な効果と費用対効果、そしてその最適な受診頻度については議論がある。このレビューでは、健康な成人に対するルーチンで行う歯石除去と歯面の研磨の効果を評価した。そのなかで治療間の時間間隔の違いがこれらの効果に影響するかどうかを確認し、歯科医師が行った場合の効果を歯科治療士や衛生士が行った場合と比較した。

このレビューには、1711人の参加者を含む2件の研究が含まれた。どちらの試験も一般歯科診療所で行われ、重度の歯周炎を持たない、歯科診療の予約を定期的に取っている成人が対象となった。これらの研究では、歯周病の初期症状(歯肉炎や歯ぐきの出血、歯垢の付着、歯周ポケットやその深さ)に対して、定期的に歯石除去と歯面の研磨の治療を行った場合と行わなかった場合を比較して、ほとんど、または全く差がないことがわかった。歯石の量がわずかに減少したが、これが患者さんや歯科医師にとって重要かどうかは不明である。6ヶ月ごとおよび12ヶ月ごとに歯石除去と歯面の研磨の治療を受けた参加者は、治療を受ける予定のない参加者に比べて、歯がきれいになったと感じたと報告した。しかし、口腔内の健康関連QOLについては、両群の間で差はないようであった。関連するコクラン臨床回答:健康な成人において、6ヶ月または12ヶ月の定期的な歯石除去と歯面の研磨の治療は、口腔内の健康を改善することができるか?

この特集号について

参照

1.Moynihan R, Johansson M, Maybee A, Lang E, Légaré F. Covid-19: an opportunity to reduce unnecessary healthcare.BMJ 2020;370:m2752 https://doi.org/10.1136/bmj.m2752

2.Moynihan R, Sanders S, Michaleff ZA, Scott AM, Clark J, To EJ, et al.COVID-19パンデミックが医療サービスの利用に与えた影響:システマティック・レビューBMJ Open 2021;11:e045343. https://doi.org/10.1136/bmjopen-2020-045343

3.世界保健機関(WHO)COVID-19は、90%の国で必須の保健サービスを破壊し続けている2021年4月23日。www.who.int/news/item/23-04-2021-covid-19-continues-to-disrupt-essential-health-services-in-90-of-countries

謝辞

この特集号のプロジェクトは、Dina Muscat Meng (Cochrane Sustainable Healthcare, Cochrane Denmark, Cochrane Sweden), Eva Madrid (Cochrane Chile), Juan Franco (Cochrane Argentina), Karin Kopitowski (Cochrane Argentina), Karsten Juhl Jørgensen (Cochrane Denmark), Mike Clarke (Cochrane Methods), Minna Johansson (Cochrane Sustainable Healthcare, Cochrane Sweden) によって開発された。この特集号の制作と普及のために寛大なご協力をいただいたコクランのすべての方々に、感謝の意を表します。

翻訳

この特集号の日本語版は、増澤祐子が翻訳し、山本依志子が監訳した。(2021年12月4日翻訳)

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